研究紹介 

<<バンダ・アチェにおける津波の再現計算及び被害評価>>

 2004年12月26日,スマトラ沖で生じた地震に伴う津波は,20万人を超える多数の人命を奪い,生活の基盤を破壊するなど,震源地の周辺地域のみならずインド洋沿岸各国に多大な損害をもたらした.本研究では、特に甚大な被害が生じたインドネシア,バンダ・アチェ市街地における津波遡上の再現計算を行い,数値解析及び現地調査の比較によって,現地の建物・人的被害基準を求めることを目的とした.

研究手法

 スマトラ島西海岸での痕跡記録と各地の潮位記録、及び人口衛星Jason1の高度計が捉えた空間波形から断層モデルの推定を行った後,推定したモデルを用いてバンダ・アチェ市街地での解析を行い、現地調査結果との整合性を確認する。その後、バンダアチェ市街の被害評価を行い,津波浸水深に対する現地の建物・道路破壊基準及び人的被害基準を求める.

研究のフロー




断層モデルの推定

 越村ら(2005)による断層パラメータを基として,スマトラ島,タイ西岸の津波来襲状況を説明できる津波発生モデルを推定した.Fig1.に本断層モデルの初期水位変動量を、Fig2.に代表的な観測所2点における時系列波形及びJason1の高度計による空間波形と計算結果の比較を示す.Sibolgaにおいては,両者の波形は良く一致するが,やや解析結果の方が早く到達している.これは南側断層位置の誤差及びSibolgaの計算に用いた,1分メッシュ地形データの影響が考えられる.また,Krabiにおいては,第二波以降にずれが見られるものの,津波の初動に関しては検潮記録と解析結果に良好な整合性が見られた.Jason1空間波形においては、北緯5度から20度までの計算水位と観測値の整合性は良好であり,北方向の伝播状況は本モデルでほぼ再現可能であるが,赤道付近で両者の誤差が大きくなる点があり,南方向の伝播状況は,北側に比べ整合性が低くなる結果となった.検潮記録との比較結果を考慮すると,今後,特に南側断層の位置,走向には検討の余地があると考えられる.
Fig.1 推定断層モデルによる初期水位分布
Fig.2 海面高度計データと計算結果の比較


Fig.3 インドネシア・Sibolgaにおける波形比較
Fig.4 タイ・Krabiにおける波形比較


アチェ市街地における遡上計算

 再現時間を3時間とし,非線形長波理論に基づいてアチェ市の津波氾濫計算を実施して,本断層モデルの妥当性を現地調査により得られた津波浸水深分布との比較により検証する.計算から得られた浸水域において,A点及びB点付近は汀線から約4000 mの地点まで遡上しており,実測の浸水域と一致している.しかし,高密度住宅地として大きい粗度を与えた浸水域の中央部分では,やや実測よりも遡上範囲が狭い.これは粗度の与え方と,津波を水のみの完全な流体と仮定して計算したことに原因がある.計算では高密度住宅地での粗度係数をn=0.1で一律に与えているが,実際には建物が破壊され,漂流物となって流されることにより,粗度が変化すると考えられる.今回のような市街地での津波被害を評価する上で,漂流物の影響をどのように取り扱うかが,今後の課題である. また、図5に示したLine1 ,2に沿って,計算で得られた最高水位と,都司ら(2005)が行った実測結果の比較を行った.図7に示したLine1の結果より,両者の値はほぼ一致することが確かめられた.
Fig.5 最高水位分布
Fig.6 最高水位比較



被害評価

 アチェ市の行政区毎の人的・家屋被害実績と数値解析結果を用いたGIS上での分析により,市街地の津波浸水深と建物・人的被害程度の関係を明らかにした.図7より,アチェ市では津波浸水深が2mを超えると甚大な建物被害が発生し始め,4mを超えると大破に至ることが分かった.また、津波浸水深と人的被害の関係を求めた結果,図8より、アチェ市の津波による人的被害は浸水深2~3mを境に増大することが分かった.
Fig.5 浸水深−建物被害関係
Fig.6 浸水深−人的被害関係



結論

・津波観測記録,人工衛星Jason1の海面高度計の空間波形を用いて,タイ・インドネシアの津波を説明する断層モデルを得た.

・アチェ市街地の詳細な津波氾濫解析を行った.解析結果と現地調査結果にはよい整合性が得られ,アチェ市街地の津波氾濫過程の再現に初めて成功した.

・アチェ市の行政区毎の人的・家屋被害実績と数値解析結果を用いたGIS上での分析により,市街地の津波浸水深と建物・人的被害程度の関係を明らかにした.これにより,アチェ市では津波浸水深が2mを超えると甚大な建物被害が発生し始め,4mを超えると大破に至ることが分かった.

・津波浸水深と人的被害の関係を求めた結果,アチェ市の津波による人的被害は浸水深2~3mを境に増大することが分かった.

 参考文献

越村俊一・高島正典・鈴木進吾・林春男・今村文彦・河田恵昭 (2005):インド洋における巨大地震津波災害ポテンシャル評価,海岸工学論文集,第52巻,pp. 1366-1370


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