M1 原田 賢治 


 *************実験についての写真************

100m長さの屋外水槽,Bore状の波先端

屋外水槽での実験風景

  


卒論研究

<<波状段波の砕波前後における水理特性>>

 砕波帯付近における諸現象の理解のためこれまで多くの研究が行われてきた.しかしなら,工学上重要となる砕波・砕波後の波動場の取り扱いに関しては,いまだ多くの未解決の問題が残っており,物理性・一般性を兼ね備えたモデルの開発,研究が行われているのが現状ある.その中でも,津波などの長波の砕波やその後の波状性段波の形成・伝播に関するものは,わずかしか研究されておらず,不明な点が多い.そこで本研究では,その伝播過程における水理特性の変化を実験データから求め,その特徴について報告をする.

目的

浅水変形から砕波,段波へ至る波について,実験によって得られるデータより計算される運動量,エネルギーの変化量を見ることによりその特徴を理解する.
浅水変形・・・波が深いところから浅いところに伝わってくると波の波高(高さ)が高くなり,波長(長さ)が短くなるように変形すること.


手法

全長100mを有する二次元水路で波状段波を発生させ砕波させる.波が変形して伝播していく過程で波高と水平流速を計測した.このデータをもとに鉛直流速を推定する.波高,水平流速,鉛直流速を用いて各計測位置における運動量,エネルギーを計算しその変化特性を調べた.


実験装置と計測地点

 実験は東北大学工学部屋外実験装置を用いて行った.水路は全長100m,幅1mのコンリート製の二次元水路で,水路端から17.5mは水深73cmの低水路部,ついで2.5mの1/5勾配の急斜面,さらに水深23cmで長さ40mの高水路部,その先は傾斜1/100の斜面部20m,水深3cmの水路20mとなっている.鉛直造波板を一度だけ水平移動させ孤立波を造波した.波は,1/5勾配において前傾化し,分裂が始まり,高水路部において砕波する.測定密度は水平方向に1〜2m,鉛直方向に5cm間隔である.水位変動は容量式波高計で,流速は静水面下を電磁流速計,静水面上をプロペラ流速計で計測した.計測結果を20Hzで離散化し水理量の計算に用いた.


実験結果


<波峰高さの変化>

 まず,図に各計測地点における第1,2,3波の最大波峰高の変化を示す.第1波は砕波地点(6.5〜7.0m)まで波峰高を増大させ,砕波後には波頂部が崩れ急激な波峰高の減少を示す(6.5〜11m).この区間では水塊の突入による激しい気泡の混入が見られる.その後,第1波は前面に気泡の混入した段波となり,しだいに波の形を整えながら,一定の割合で波峰高を増加させている(11m〜).主峰後方には2つの分裂波が形成されている.


<走時曲線>

 各計測地点における,第1波の静水時からの立ち上がり点(ゼロアップクロス点)と立ち下がり点(ゼロダウンクロス点)の通過時間,およびその時間差を図に示す.ゼロアップ・ゼロダウンの時間差を見ると砕波の前後では,傾向に違いがある.砕波点前ではこの時間差はほぼ一定であるが,砕波点後にはゼロアップクロス点の位相速度が増加するため,時間差が大きくなっている.これは砕波による水塊の突入によるためと考えられる.
 


<最大流速分布>

 下図は各計測地点での最大水平流速の鉛直分布を表している.砕波点に近づくにつれ流速が増加し,計測位置の高いところ程流速が大きくなっている.砕波後の気泡の混入した状態(X=7,8,9,10)では,水面近くでの流速が非常に大きくなっている.


<運動量の変化>

  下図に,各計測地点ごとのゼロアップ・ゼロダウンクロス間の,運動量通過量Mと砕波地点の運動量通過量Mbの比を示す.白抜きは砕波前,塗りつぶしたものは砕波後のものである.ここで用いた運動量Mは,密度をρ,静水深をh,静水深からの水面の変化をH,静水圧からの変動圧力をp ,ゼロアップクロスからゼロダウンクロスまでの時間をTとして次式で表される.

ここで

である.動圧p は直接測定が困難なため,測定水位と測定流速を用いてアーセル数の大きい場合の非線形分散波理論より求めた.鉛直流速wについては,連続の式を底面から水面まで積分し,底面でw=0の境界条件により水面での鉛直速度を求め,鉛直方向に線形分布させて推定している.

 砕波後,Mpは第1波の波峰高減少により減少している.Mvは緩やかに減少している.これは気泡混入による流速の減少のためと考えられる.

 


<エネルギーの変化>

 下図に,各計測地点ごとのゼロアップ・ゼロダウンクロス間の,エネルギー通過量Eと砕波地点での通過量Ebとの比を示す.ここで用いたエネルギーEは,次式で表される.

 

 砕波点(X=6.5m)からX=10mにかけてエネルギーEが急激に減少している.これは,この区間で第1波峰高さが大きく減少していることから判るとおり,位置エネルギーの減少によるものである.一方,運動エネルギーは緩やかに減少している.これは,気泡混入や底面摩擦などにより長い区間にわたって緩やかに減少していると推定できる.これらの結果は永富ら1)(1985)と同じである.エネルギーの急変のうち,砕波,乱れによるエネルギー減少量がそれぞれ16.8%,7.8%と算定できる.


結果

 砕波による波高の急激な変化は,短い区間での位置エネルギーの大損失を起こしている.砕波による気泡混入は,緩やかな運動エネルギーの減少を引き起こしている.今後,気泡混入によるエネルギー減衰項,砕波直後の波高減衰に対応するエネルギー減衰項を含んだモデルを作る予定であり,各減衰項を決定するための実験が必要である.

 参考文献

1)永富雅司・後藤智明・真野 明: ソリトン波列の砕波変形に関する実験,第32回海岸工学講演会論文集,1985.


制作者

 harada@tsunami2.civil.tohoku.ac.jp